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2013/09/05

レシピから広がるフランスの食と農:ヒヨコ豆の粉を使った南仏の名物料理 Socca (ソッカ)とPanisses(パニッス)をみんなで作ってみました

【CSフランス語が総力をあげて南仏ヒヨコ豆料理に挑戦!】
料理は素人なのに先生顔の講師M。家ではとてもこんなことできる
立場ではないので大目に見てやってください。
ヒヨコ豆って、食べたことありますか? たまにインド料理店の本場カレーとか、スパゲッティの具材とかに入っていたりしますが、日本ではあまり馴染みがないのではないでしょうか。

けれども、ヒヨコ豆はいにしえよりインドから北アフリカにかけて主要穀物のひとつとして広く食べられてきました。この地域は、インダス文明、メソポタミア文明、エジプト文明という、世界四大文明のうちの三つが栄えたところ。ヒヨコ豆は、栄養価が高く、保存の効く主食のひとつととして、古代文明を支えてきたのでした。英語でchickpea(チックピー)、スペイン語でgarbanzo(ガルバンゾ)、イタリア語でceci(チェチ)、ヒンディ語でचना(チャナ)、アラビア語でالحمص(?読み方わかりません)…。いまも、ヒヨコ豆はこの地域の人々の毎日の生活になくてはならない食品のひとつです。

フランス語ではpois chiche(プワ・シッシュ)と呼ばれています。パリなど、北の方では丸のままゆでたものをよくサラダに入れて食べますが、どちらかというと北アフリカやインドを連想させる「エキゾチックな食べもの」というイメージがあります。しかし、南仏の地中海に面した地方になると、やはり「ヒヨコ豆文明圏」の伝統が根付いているようで、さまざまな形で日常的に食べられています。

Pois chiche: 日本語でヒヨコ豆
あらためて見ると、たしかに可愛

いヒヨコの形をしています。
そのひとつが、ニースの名物料理として知られるsocca(ソッカ)。ヒヨコ豆を粉にしたものに水とオリーブ油、塩を加えて混ぜ、薄く流して焼くだけの簡単な料理。ランチ時ともなると、街中の食堂やカフェで、クレープのように薄いsoccaを大きなお皿からちぎってパクつきながら昼食を取る人が目につきます。簡単に作れるので、家庭でもよく食べられています。

もうひとつは、ニースの西約160kmの、同じ地中海に面したフランス第二の大都市マルセイユのご当地料理。こちらもヒヨコ豆の粉を使いますが、panisses(パニッス)と呼ばれ、ペースト状に練ったものを厚さ1cmぐらいに伸ばし、切ったものを油で揚げたり、フライパンで焼いたりして食べます。切り方は、拍子木状だったり、三角形だったり、お店ごと、家庭ごとに思い思いの流儀があるようです。

ヒヨコ豆という食べものからフランスを見ていくと、さまざまな文明・文化との交流のなかで培われてきたフランス文化のルーツの一端が浮き彫りになってきます(ヒヨコ豆とフランスの関係についてはこちら)。

フランス語を、頭だけでなく体感で学ぼうという本CSフランス語講座としましては、まずは作って食べることでフランス語をマスターすることにしました(えっ? それのどこがフランス語マスターかって? ま細かいことはスルーしましょう)。

日本語のレシピはこちらにあります:


南仏名物 ヒヨコ豆料理を作って食べるフランス語講座:その全記録!

日本でも買える有機ヒヨコ豆粉

レシピは単純なのですが、最初の難関はヒヨコ豆の粉の入手。とくに粉を店頭で売っている店は、まだ見たことありません。そこでネットを見てみると、ネット上には「ベサン粉」などの名前で業務用を始め、いろんな商品がけっこう安く売り出されています。でも、わがCSフランス語講座でやるからには、当然オーガニックでなければなりません。で、再びネットであちこち探した結果、こちらで見つかったので、即ポッチ。2日で届きました。(あとで見たらいろんなところで売ってるみたいですね。)

Panisseをつくってみた

もうひとつの予期せぬ難関は、panissesのレシピのディップに必要な山羊のチーズとコリアンダー(香菜)。教室のある東京・小田急線「経堂」駅周辺のスーパーや輸入食品の店で何度も買ったことがあるので楽観していたところが、講座の前日に行ってみるとどこにもない! どちらもちょっとクセのある香りなので、日本では売れないんでしょうかね。

そんなわけで、山羊のチーズはやっと見つけたマガイものの加工品 fromage industriel、さらにコリアンダー抜きのディップになってしまいました。

レシピにもありますように、panissesの生地は、いったん加熱しながら練ったあと、冷まさないといけないので、前日に講師の方で用意しておきました。

まずpanisesとディップが完成。ディップは材料を
混ぜるだけでのカンタンさ
Panissesの生地は、そば掻きをつくったことのある人ならすぐわかると思います(ちなみに講師Mはそば掻き上手を自負している)。所定の量の水を入れたナベを火にかけ、沸騰したらヒヨコ豆粉を少しずつ入れて熱しながら、ひたすらかき混ぜます(こちらの映像参照)。いろんな流儀があるのはそば搔きと同じですが、時間は20分とかなり長めです。

作ってくれた生徒さんたちを差し置いて、出来たてを最
試食する講師M。はふほふ。けっこうイケるわこれ
火が通ってドローとした感じ(そば掻きよりもゆるく、ゆっくり流れるぐらいでいいです。冷えると固まりますので)になったら、バットなどに厚さ1cmぐらいの厚さに延ばします。ラップの上に流して、上からもラップをかけ、押さえて均一に延ばすという几帳面な方もいらっしゃいます。冷えて固まったものを適当な形・大きさに切り分けます。このあとはpanisssesのレシピをご覧ください。

教室では、生地がすでに出来ていたpanissesの方から調理を始めました。フライパンに少し多めの油を入れて、拍子木に切ったpanissesの4面を焼いていきます。全面にきつね色の焼き色がつくまでにはけっこう時間がかかりました(5分ぐらいでしたっけ?>深澤さん)。

出来上がったものをキッチンペーパーの上に載せてよぶんな油を取り、A. Ducasseシェフのレシピに従って作ったディップに浸けて味見(講師の特権?)。ん〜〜、皮がサクッと、中ふんわり。これにディップの山羊のチーズ(マガイもんですが)とバジルの香りが絡まって、コリアンダー抜きでも充分うまい。panissesを手に取って最初に感じるのは「重っ!」。大きさの割に指にズシっと来る感じ。胃にもけっこうズッシリ来ます。「これ食べたら夕食まで間食はいらないかな」と思うほど腹持ちがいいです。ついついまた手が伸びそうになるのを押さえて、本命のsoccaに取り掛かります(というか、生徒さんたちがすでに準備中でした)。

Soccaをつくってみた

試行錯誤の末、オーブンのターンテーブルに油を敷いて
soccaの生地を流し込むことに。「楽勝じゃん」と余裕
の講師M(この後に起きる悪夢はまだ知る由もない)
Soccaの方は、生地を作るのは簡単なのですが、焼くのが難関。soccaの生地はゆるい(天ぷらの衣ぐらいの感じ。ちなみにヒヨコ豆の粉は、業務用で天ぷらの衣に混ぜて使われることもあるとか)ので、薄く流し広げようとすると、どうしても流れて偏ってしまうのです。最初、オーブンに付属の角皿でやろうとしましたが、中央が盛り上がっているので不可。ターンテーブルが平で広いようなので、これにsoccaの生地をを流し入れ、それを角皿の上に乗せて焼くことにしました。

予熱してあった6台のオーブンに入れ(料理をしたクッキングスタジオBELLEには、主婦/主夫なら羨ましくなるような高級調理設備・器具がそろっています)、温度=最高、タイマー=7分にセット! スタートボタンを「ピッ」と押して「あとは待つだけ」と一息。焼きあがって、さあ食べましょうか!という段になって……
本来ならお皿からはみ出すくらいの大きな円盤になる
はずが… 細切れになったsoccaが苦労の跡を記します。
でも味は本格。滋味豊かな古代地中海文明の味をかみし
ました。

くっつくんですよこれが、激しく。

油を多めに入れたつもりでしたが、オーブンの中では、油はsoccaの生地よりも軽い→生地を流し込むと油が表面に浮き上がる→生地とターンテーブルが直に密着という過程が発生。アツアツをいただくはずが、ターンテーブルにへばりついたsoccaを木べらでこそぎ落とすのに四苦八苦という悲惨な結末が待ち受けていました。学生のころ、チャーハンを作るラーメン屋のオヤジをカウンター越しに見て、「あれくらいオレだって」と安物の中華鍋を買って帰り、作ってはみたものの、ほとんどのご飯をナベに取られたときのあの感じと言ったら分かっていただけるでしょうか(分かりませんか)。

万難を乗り越え、豪華ランチがめでたく完成。いっただき
まーす! まだ陽も高く、いちおう教室ということもあり
(今回は)ワインをがまんしました。やはりかなりお腹に
たまるので、完食は無理でした(残りはおみやげに)
そんなこんなもありましたが、皆さんのテキパキしたお働きで、豪華なランチが出来上がりました。何度かやってみてコツがつかめれば、「早い、安い、うまい」の三拍子揃ったお手軽レパートリーになりそうな気がします。さらに「腹持ちがいい」が加わりますから、レシピの解説に買いてあったように「古来から貧しい人たちの食べものだった」というのもうなずけます。

しかも、解説記事にもあるように、ヒヨコ豆は栄養豊富で脂質が少ない理想的な健康食。ダイエット中の人や、小麦やソバなどのアレルギーをお持ちの方は、いちどお試しになってはいかがでしょう?(ただ、「焼く」ところだけは、日本のご家庭用に改善の余地あり[1]

文: 真下(講師) | 写真: 田村さん(CSまちデザイン)
(田村さん、時間オーバーしてゴメンなさい! いろいろ準備や後片付けもありがとうございました。)


(実施: 2013.07.17)

[1] Soccaの焼き方について、その後、講師Mがいろいろやってみた結果、現時点でいちばんお手軽で、かつホンモノに近いsoccaが焼ける方法と思われるのは、ノンスティック・フライパンで焼くというイージーなやり方。クレープ同様に、油を敷いて(多めが南仏風!)、お玉で円を描くように流し入れ、固まらないうちにフライパンを傾けながら広げる。端が乾いてきたら裏返して1分、と超カンタン。
「なんちゃってsocca」ですが、あまりに簡単・美味しい・健康的なので、このところインスタントラーメンの代わり(実際、同じくらい早く作れる)、あんまり作りたくないときの食事に(これとサラダとワインかビールがあれば立派なダイエット食)と、ふだんのメニューに定着した感じです。

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