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2013/12/11

現代日本によみがえったフランス中世の宴会 Banquet au Moyen Âge



「中世フランスの人たちはどんな料理を食べていたのか?」——大胆かつ素朴なこのギモンに答えを見出すべく、中世のレシピ本(の解説本)に果敢に取り組んだCSフランス語精鋭の面々。中世食文化の背景を探り、困難を極めた解読作業を経て、中世フランス食文化という、今日のフランス人にとってさえ未知、前人未踏(?)の闇に斬り込んだのでした!

はたして、その成果やいかに!?——

1000年前のフランス人はどんな料理を食べていたのか?——知られ
ざるフランス文化の闇のルーツに、今まさに分け入らんと準備に専念
するCSフランス語の精鋭の面々。クッキングスタジオBELLEに緊張
がみなぎる!

わりと時間が掛かります

一般に、中世料理は時間が掛かります。まず生のものを食べない(その理由は、中世食文化の奥深〜い背景を解き明かしたこちらのページを参照)。料理 cuisine という言葉自体、「加熱して口に入るものにする」という意味の動詞 cuire の名詞です。で、この「加熱」時間が長い。30分や1時間はざらです。電子レンジがなかったからというのもあるかも知れませんが、中世と現代の時間感覚の差というものを感じますね。

ちょっと見卵のすまし汁に
似たザンザレリ Zanzarelli。 
前回のSocca/Panisseでは「か〜んたん、楽勝」とみくびって時間オーバーしてしまったことに学習して、今回は教室ですべてつくることをせず、料理 plat ごとに分担して、家でつくれるところは予めつくっておいて、それを教室に持ち寄って完成させるという戦略で行くことにしました(これなら、CSの田村さんにご苦労をおかけすることも少ないでしょうし)。

L'espinarde en brouet も完成に
近づいてきました。
時間が掛かるといっても、そういう料理はたいがい火に掛けてグツグツ煮るとか、フライパンで弱火で蒸し炒めとか多いので、そんなに手が掛かるわけではありません。たとえば、私こと講師Mが担当した「ホウレンソウのお粥 L'espinarde en brouet」は、料理と呼べるような作業は最初の5分ぐらい。鍋に材料を入れて弱火にしたら、あとは放っておくだけ。出掛ける準備をしながら、タイマーが鳴ったら材料を加えてひと混ぜして、また放置。たぶん、中世の人も野良仕事やら家内作業をしながらつくっていた、というか、そういう風に仕事をしながらでも美味しくできる料理が代々伝わって定着したということでしょう。

中世料理の特徴とは?

フランス中世料理で特徴的なのは、何といってもまずアーモンドミルク。地中海沿岸で大量に採れるアーモンドは、古代からこの地域の基本食材でした。冷蔵庫のなかった時代、動物の乳は足が速く、搾乳後すぐに日持ちのするバターかチーズに加工されたため、ミルクの形で使える量は限られていました。その動物の乳の代用品としてアーモンドミルクが用いらたのでした。キリスト教が生まれてからは、「断食 jeûne」の時期に禁止される動物の乳の代わりとしても多用されるようになったそうです。

本日のメインディッシュ Limonia
ou Poulet au citron を盛りつけ。
スパイスが多用されていたことも中世の特徴です。こちらの中世料理レシピを見ても分かるように、クミンやコリアンダー、ジンジャーパウダー、カルダモン、ナツメグ、シナモン、クローブなどスパイスが必ず入ります(今日のフランス料理でこれらがあまり使われなくなった理由はナゾ)。

中世料理をつくるキッチンは、このアーモンドミルクの甘い香りと、各種スパイスの匂いが混じり合った、これまでに経験したことのないアロマに満たされるのです。

繊細な美味しさ

中世フランス Banquet 料理が完成!
中世料理と聞くと、薄暗い石造りの部屋で、毛むくじゃらの男たちが、鎧やら兜やらをガシャガシャいわせながら手づかみでブタの骨付きモモ肉にかぶりついてる——みたいなイメージでしたが、実際つくって食べてみると「かなり繊細でビミョーなお味」「スパイスの意外な組み合わせが新鮮!」「アーモンドミルクのスッキリしたまったり感がクセになりそう」などなど、目からウロコの発見の連続。今日、私たちが食べているものと比べても遜色のない美味しさです。

というか、当時は農薬も、放射能も、食品添加物も、偽装食品もないし(いや、「羊頭狗肉」と言うように、偽装食品はあったそうですね)、すべてホンモノ、天然オーガニックでした。いつでしたか、九十九里浜で、網で揚げたばかりのイワシを炭火で焼いた焼きたてをハフホフ食べたときのあのウマさがいまだに忘れられませんが、ホンモノはそれだけで美味しい。ひょっとすると中世の方が美味しいものを食べていたのかも知れません。

えっ、ふむふむ、へえー、なーるほど
—— フランス中世の食文化を五感+知
力で味わい尽くします。
英語のことわざに “You are what you eat.” (あなたは、あなたが食べているものだ→人はその人が食べているものでつくられる→食こそ人間の本質)というのがありますが(ちなみに、これに似たフランス語の表現としては、«Dis-moi ce que tu manges, je te dirai qui tu es.» というのがあります)、「食べる」ということは命の源。いつの時代にも、人間は「身の回りにあるものを美味しく食べるにはどうしたらいいか?」と考え続け、試行錯誤を繰り返して来たんだなぁとしみじみ感じたフランス中世の宴会でした。

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